東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)89号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は本願考案と引用例記載の発明との構成上及び作用効果上の差異を看過して、誤つた結論を導いたものである旨主張するが、次に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であり、原告の主張は、理由がないものというべきである。
成立に争いのない甲第三号証の五(本願考案の全文訂正明細書及び図面)によれば、本願考案は、一般コンプレツサーの噴出部に取り付けて使用するエアムーバーに関するものであるところ、従来のこの種のエゼクター装置としては、空気の吹出口を平行な間隔で環状スリツトに形成し、そのスリツトをノズル先端の噴出口に向かうよう軸心に対し傾斜して設けるものが知られているが、このような装置では、空気は予め定められた方向へ噴出するため、噴出空気がスリツトから出る際に噴出口側の壁面へ空気の押し付けが余り行われず、そのため粘性流としての押付力が弱く、強力かつ効果的なエゼクター作用を得ることが困難であつたので、この点の解決を目的として、本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成を採用したものであり、その基本的な構成による作用として、別紙図面(一)に示すとおり、コンプレツサーから供給された矢印イの圧縮空気は、供給口2よりノズル外廓体1の周胴3に入り、後当版9と開設孔11との間に形成された僅少の周側の間隙12から噴出口4の後端部に噴出するので、内周壁6の周側面に附着して噴出口4の先端方向へ流出していくという現象、すなわち、コアンダ現象が生じ、したがつて、噴出口4の中空内部は真空的となり、圧力が低下するので、後当版9の開設孔11の周辺部の空気を吸引誘起し、中心部より矢印ロの状態に集まり、ノズルの噴出口4より矢印ハのように集中吐出され、この際、噴出口4の外廓部1の外側よりも誘導気流ニが生じ、共に集約されて強力な噴出作用を行う効果を奏するものであるが、本願考案は特に、(イ)「開放面に、ノヅル軸心に対して直角な垂直面を対向させた後当版9を接当させた」点、及び(ロ)「後部開口に内設した曲面辺10と後当版9の開設孔11とを僅少の間隙12をおいて連設した」点の構成を採用したことにより、コンプレツサーよりの圧縮空気を供給口2へ供給すると、高圧下の周胴3内の空気は環状の間隙12よりその中心内部へ噴出するが、この際、空気はノズル本体5の後部開口に内設した曲面辺10によつて垂直な面の後当版9側へはいかず、曲面辺10側の前方へ偏向させられるため、内周壁6に沿つた粘性流体となつて先端の噴出口4へ噴出させられ、したがつて、後当版9の開設孔11にはその全周から外気を吸引誘起し、更に噴出口4の周りの空気をも二次空気として誘引するので、通常の単なる開口ノズルよりなるエゼクタに較べ空気の供給量と吸引噴出量の割合がけた外れに大きく、そのため必要空気量に対し少量の圧縮空気の供給の用を弁じ、また、吸引から吐出をストレートに行い、従来の開口ノズルに比較して空気の吐出音を著しく減少させる等の効果を奏するものであることが認められる。
他方、成立に争いのない甲第二号証の一(本件公開特許公報)及び第二号証の二(本件公開特許公報の図面の拡大図面)によれば、引用例記載の発明は、本願考案の実用新案登録出願の日の前の昭和四八年六月二七日の実用新案登録出願であつて本願考案の実用新案登録出願後の昭和五〇年三月一二日に出願公開がされたものの願書に最初に添附した明細書及び図面に記載された発明であつて、コアンダ効果を用いるフルイツド・デバイスに関するものであるが、その目的の一つは、従来の装置より効率のよいコアンダ効果を利用するフルイツド・デバイスを提供するところにあるところ、その発明の詳細な説明中実施例の説明として、スリツト14を規定する二つの環状部17と18の隣接部の拡大図面を示す図面2において、(1)環状部17は平面部17aを有しており、環状部18も表面18aを有するように形成されている、(2)該表面18aは、いくぶんフラツトであるが、表面18aと環状部18の内部との間の端部に小さなアール部(例えば、〇・〇三インチ程度)18bを有している、(3)二つの表面は、平行に、かつ、基本的にはノズルの軸に対して垂直にするのがよい、また、(4)一方に対してある程度(例えば、表面17aに対して五度程度)傾けるようにしてもよい、(5)少なくともスリツト14を通して第一の流体がコアンダ効果によつて矢印16の方向に環状部18の表面に沿つて流れるようなものであればよい、(6)第一の流体の量を決定する一つのフアクタは、表面17aと18aとの間のスリツトの幅であり、該幅の値は〇・〇〇二ないし〇・〇一〇インチ程度である(本件公開特許公報第四二三頁上段右欄第一七行ないし下段左欄第一四行)、と記載されていることが認められ、右記載内容及び図面によると、引用例には、本願考案の前示(イ)及び(ロ)の構成が開示されているものと認められるから、本願考案と引用例記載の発明とは、技術的構成及び作用効果において異なるところはなく、両者は、その技術的思想を同一にするものと認めるべきである。原告は、引用例記載の発明では、(a)相対する二つの面からなるスリツト14は、空気の噴出方向に傾斜しており、(b)そのスリツトの二つの面は、出口に至るまで平行しているところ、その一方の面の出口端に小アール部18bを有するものの、本願考案における曲面辺は具有しておらず、また、(c)この小アール部は、スリツト14の出口を完全に出た位置において形成され、本願考案のようにスリツトの出口に至る内部にはない旨主張するので、検討するに、前示引用例記載の(1)ないし(6)の技術事項によると、引用例には、右(a)の構成のものも記載されている((4))が、本願考案の前示(イ)の構成と同じ構成のものも記載されている((3))から、引用例記載の発明は、右(a)のものに限られるものではなく、また、引用例記載の小アール部18bは、コアンダ効果を生じさせることを目的とするものと認められる((2)及び(5))ところ、本願考案の曲面辺10も同じ目的を有するものであることは、前認定のとおりであつて、両者は、技術的思想として同一機能を有する同一の技術事項であると認められ、更に、引用例記載の小アール部18bが、原告主張のとおり、スリツト14の出口を完全に出た位置において形成されているとすれば、コアンダ効果を奏することができないか、あるいは著しく効果を損なうものであるから、前示引用例記載の発明の技術的思想からみて、小アール部18bが右のように形成されているとは到底考えられないもの(図面2からもそのように形成されているものとは認めることができない。)であり、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。この点に関して、原告は、引用例の前示(3)の記載は、実施不能な不備な記載である旨主張するが、前示引用例記載の技術事項によれば、右(3)の構成のものにおいても、コアンダ効果が生じるように小アール部18bが設けられているものというべきであるから、原告の右主張も、採用の限りでない。また、原告は、引用例の図面を根拠として、引用例記載の発明においては、スリツトはノズルの軸心に対して傾斜している旨主張するが、引用例記載の発明が右のものに限られていないことは、前説示のとおりであり、したがつて、原告の右主張も、失当である。更に、原告は、作用効果の点から、引用例記載の発明においては、スリツトは軸心に対して傾斜している必要がある旨主張するが、引用例記載のスリツトが軸心に対して垂直であるものも、コアンダ効果を生じるものであることは、前説示のとおりであるから、原告の右主張もまた、採用し得ない。更にまた、原告は、引用例記載の発明は本願考案が対象としている空気噴出部の構造についてはその対象外にしているとか、引用例には、スリツトが軸心に対して垂直である構成のもののコアンダ効果の発生理由等が開示されていない、などと主張するが、引用例に本願考案の技術的構成についての開示があり、両者の作用効果に異なるところがないことは、叙上認定説示のとおりであるから、原告の右主張も、採用することができない。
してみれば、本願考案と引用例記載の発明とは実質的に同一であるとした本件審決の認定判断は正当であり、原告主張のような違法はないものというべきである。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
ノヅル外廓体1の手許側部の供給口2に、圧縮室気管を連結して周胴3と連通させ、先部の噴出口4より周胴3の内部に渉り、ノヅル本体5を内設し、内周壁6の後端縁7及び外廓体1の後端縁8を略々一平に揃えて開放面に、ノヅル軸心に対して直角な垂直面を対向させた後当版9を接当させ、ノヅル本体5の後部開口に内設した曲面辺10と後当版9の開設孔11とを僅少の間隙12をおいて連設したエアムーバー。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>